大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)11980号 判決

原告 丸三証券株式会社

右訴訟代理人弁護士 磯村義利

被告 杉本喜代次

右訴訟代理人弁護士 大橋光雄

主文

被告は原告に対し金一、〇三二、〇六五円およびこれに対する昭和四二年一一月一七日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

一、原告が東京証券取引所の会員たる証券会社であること、被告が原告に対し厚木ナイロン株式を信用取引で買付けるよう委託したことは当事者間に争がなく、〈証拠〉を綜合すると、原告が右委託に基き昭和四二年七月二〇日右株式二五、〇〇〇株を単価七四円で、同月二一日右株式二〇、〇〇〇株を単価七七円、同二〇、〇〇〇株を単価七六円でそれぞれ買付けたことが認められる。

二、そこで右買付委託の際の被告の指値について検討する。

〈証拠〉を綜合すると、昭和四二年七月二〇日の朝九時頃の原告店員鈴木郷と被告との電話連絡の際には、被告は七二円で買いたいとの希望をもっていたが、同日昼頃の電話連絡の際には、被告は結局後場寄付で二〇、〇〇〇株、七三円で三〇、〇〇〇株、七二円で五〇、〇〇〇株の注文をしたこと、鈴木は同日後場寄付において七四円で二〇、〇〇〇株の買付けができたので、同日午後の被告との電話連絡の際その旨を報告するとともに同日昼頃の注文中七二円で五〇、〇〇〇株を七四円で二〇、〇〇〇株、七二円で三〇、〇〇〇株に訂正することの承諾を得て買付注文を訂正した結果、さらに七四円で五、〇〇〇株の買付けができたこと、鈴木が同日夜被告との電話連絡で、当日七四円で計二五、〇〇〇株の買付ができたことを報告するとともに翌日の買付けについて相談した際、被告はできるだけ安くと希望したが、鈴木が七六円で五〇、〇〇〇株、七五円で一五、〇〇〇株、七四円で一〇、〇〇〇株ではどうかと進言したところ、被告は七五円、七六円のところは鈴木にまかせるということで右申出を承諾したこと、ところが翌二一日鈴木は相場が上向きで被告の不利にならないから事後承諾を得られるものと考え、前場寄付値で二〇、〇〇〇株の注文をしたところ七七円で買付けができ、さらに七六円で二〇、〇〇〇株の注文をしたところその買付けもできたが、その余の注文については、相場がのびなやみの気配であり、また当日は被告が不在であることを前夜の連絡の際聞いていたので、後刻被告と相談することとして、その執行を見合わせたことがそれぞれ認められる。〈省略〉。

ところで、原告が買付けた厚木ナイロン株式中昭和四二年七月二一日の単価七七円、二〇、〇〇〇株については、被告の指値が最高七六円であることは前認定のとおりであるから、これに違反することになるところ、証人鈴木郷の証言(第一、二回)によると、鈴木は原告の代理人としておそくとも同年八月一五日には被告に対し右取引を単価七六円の取引として処理することを承諾したことが認められる(これに反する被告本人尋問の結果は信用しない)から、原、被告間の取引は結局単価七四円で二五、〇〇〇株、単価七六円で四〇、〇〇〇株(代金合計四、八九〇、〇〇〇円)となる。

三、信用取引については、委託契約準則等により客が証券会社に対し保証金または保証金代用有価証券をさし入れる義務があること、原告が昭和四二年一〇月一〇日被告に到着した内容証明郵便で原告主張の催告および条件付契約解除の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争がなく、〈証拠〉によると、被告は同年七月二〇日鈴木に対し原告主張の株券を保証金代用有価証券としてさし入れると約束したのにその後原告から請求があったにかかわらずこれをさし入れず、遂に前記内容証明郵便に定めた期間内にも右証券または正規の金額の保証金を預託しなかったことが認められる。

四、そして〈証拠〉を綜合すると、原告は被告から保証金の預託がないため、委託契約準則に基き、前記買建玉につき、昭和四二年一〇月一四日単価六六円で一五、〇〇〇株、同月一六日単価六四円で一五、〇〇〇株、単価六五円で五、〇〇〇株、同月一七日単価六三円で七、〇〇〇株、単価六四円で二〇、〇〇〇株、単価六五円で三、〇〇〇株をそれぞれ売手仕舞した(代金合計四、一九一、〇〇〇円)ことが認められる。

したがって、前記一の買付(ただし二記載のとおり代金額変更)と右売付による被告の差損金は六九九、〇〇〇円となる。

五、本件信用取引による手数料、継続料取引税、日歩の合計額が三三三、〇六五円となることは当事者間に争がなく、原告が被告の委託の趣旨に従い委託事務を執行したことは前認定のとおりであるから、被告は原告に対し右金員を支払う義務がある。

六、被告は、原告が昭和四二年一〇月一四日まで手仕舞をしなかったことについて過失があると抗争するが、成立に争のない甲第九号証によると、東京証券取引所の委託契約準則第一三条の九には、顧客が委託保証金を預託しないときは、証券会社は任意に顧客の計算において建玉の処分をすることができる旨定められているところ、右規定は、証券会社に対し建玉を処分する義務を課したものではなく、委託者が委託保証金を預託する義務を履行しない場合に証券会社が損害を蒙ることを防止するため、いつでも任意に処分することができる権限を付与したにすぎないと解すべきであるから、右被告の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

七、よって、被告は原告に対し前記差損金六九九、〇〇〇円と手数料等三三三、〇六五円の合計金一、〇三二、〇六五円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和四二年一一月一七日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告の本訴請求を正当として認容する。〈以下省略〉。

(裁判官 大西勝也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例